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   六月十八日(木)

 「こんにちは。『立花潤の立ち話』、今週も聴いてくれてありがとう。まず一枚ハガキを紹介しますね。国立市のキーちゃんから。〔潤さんこんにちは。いつも聴いてます。私は今病気で入院しているので、ラジオが手放せません。テレビもいいのですが、ずっと見ていると疲れてしまうのです。だから、ひとりでいるときはずっとラジオを聴いています。私は中二の女の子です。友達はみんなアイドルが好きな子が多いです。でも私はロックが大好き。だから潤さんの番組がもっと長い時間になったらうれしいのにと思います。私の病気は治りにくい病気です。でも毎日がんばって治療しています。潤さん、少しでいいからはげましの言葉をください。そうしたらもっと元気になれそうな気がします。よろしくお願いします。これからもがんばってください。〕キーちゃん、ハガキありがとう。そして、いつも聴いてくれてるんだね、ありがと。ぼくのかける曲で少しでも誰かを元気にできたら本当にうれしいことだと思っています。キーちゃん、なんの病気なのか書いてないけど、治りにくい病気なんだね。そう・・・。でも、治りにくいってことは、治らなくはないってことでもある。治る可能性があるってことだ。だから希望を持ってがんばれ。うまく言えないけど、ぼくはキーちゃんの味方だよ。応援してる。それを忘れないで。なにか辛いことがあったらまたハガキを送って。ぼくに出来ることなら手伝いたいから。それにね、キーちゃんたちからのハガキにはぼくもとっても元気をもらってるんだよ。ありがとう。・・・最近しみじみ思ったことがあって、人から見ても病気じゃなさそうな人が病気だったりするんだよね。たとえば耳の病気の人は外から見てもわからない。まあ、内臓だってそうなのかもしれないけど。ぼくの近くに、電車のドアが閉まるのが怖くて電車に乗れないっていう病気の人がいる。普通に考えれば、電車が来て、ドアが開いて、そこに入るだけじゃんって思うんだけど、それがどうしてもできないんだ、その人にとっては。自分には理解できないような病気があるんだなあって思ったよ。キーちゃんも、そのほかにも病気の人が聴いてくれてると思うけど、一緒にがんばっていこう。あせらずにね。じゃあ今日はロック好きのキーちゃんに一曲かけようね。ジューダス・プリーストで、『ELECTRIC EYE』。」

 バイトに行くと、店長がぼくのところに来た。
「立花くん、城石くんの様子はどう?」
「カオルの様子ですか?」
「昨日ねえ、電話して・・・そのあと気になってさ。」
「ああ、もう大丈夫だと思いますよ。落ち込んだでしょうけど、もう。」
「そうか。私も辛いんだよ、城石くんのことは息子みたいに思っていたしねえ。でも来てもらえないとなるとやっぱり・・・。」
「店長の気持ちはわかりますよ。ぼくが店長だったとしてもそうするしかなかったと思いますよ。カオルも理解してくれますよ。」
「だといいんだけれどね。」
「それから、次の人が決まり次第ぼくも辞めさせていただきたいんですが。」
「え、続けてくれる気はないかい?」
「ええ、申し訳ありませんけれど。カオルの代理だけということに。」
「・・・そう。でもきみが来てくれて本当に助かったよ。明日ふたり面接に来るから。採用するかどうかはわからないけどね。」

 バイトが終わってからカオルに電話した。
「カオル?」
『じゅん、どこ?』
「立川駅。これからまーちんのところへ行ってくるからね。ちゃんとメシ食べろよ。」
『まーちんとさっき電話したけど、出張なんだって?』
「そうみたいだね。だからまたらんまるとの日々だよ。」
『うれしいな、らんまるに会えるの。今夜連れてくるの?車貸してくれるって?』
「うん。だけど何時になるかわからないよ。運転の練習に付き合ってもらってからだからね。あのデカイ車をオレに運転しろっていうんだから。でもあれがあれば額縁が買いに行ける。」
『そうだね。』
「ヒジカタさんに言っといてくれた?」
『うん。あのワンちゃんならいいって。』
「あ、電車来ちゃったから切るよ。」
『うん。』
 町田に着いたのは七時半。それからまーちんを助手席に乗せて町田をグルグル走った。一時間半くらいでなんとか車と運転に慣れてきた。
「もうこれくらい乗れれば大丈夫だよ。」
「悪いね、付き合わせちゃって。」
「いいよ、普段じゅんにもカオルにもなんにもしてやれないからさ。」
「カオルにいつまで出張って言ったの?」
「一週間。」
「だけど今週ライブじゃん。」
「その夜だけ戻ってきてライブ。」
「無理な設定だなあ。まあいいか。」
「じゃあらんまるをたのむな。」
「ありがとう、車は明日返しに来るよ。駐車場がないから。」
「気を付けろよ。」
ぼくは後ろにらんまるを乗せて八王子へ向かった。

 らんまるを連れて帰ると、予想通りカオルはおもちゃをもらった子供みたいに喜んだ。(もちろんらんまるも喜んでいた。)車の後ろで抱き合っている。
「ねえ、またじゅんの部屋にいれるんでしょ?」
「まあそういうことだね。」
「オレ、一緒に寝てもいい?ゆかでいいから。」
「ベッドに寝ていいよ。オレは今晩外泊するから。」
「じゅん、出掛けるの?」
「ううん、まーちんの車に泊まる。レッカー移動されると困るから。」
「えーっ、それ楽しそう!ねえ、らんまると三人で外泊しようよ。」
「おまえはおかしなヤツだね。」
「ダメ?」
「いいよ、ぼっちゃまがそうしたいって言うなら。」
「やったー。らんまる、一緒に寝ようね。」
無邪気の骨頂。
「じゃあ布団を持ってこないとね。」
「うん。飯盒とか水筒も持って行きたくならない?」
「ぼっちゃまは一体どこへ行くおつもりなんですか?」
「星が見える景色のいいトコ。」
「飯盒を使うようなトコには行きませんよ。」
 ぼくらはとりあえず部屋から毛布を持ってきて車に積んだ。カオルはコンタクトレンズをはずしてきたらしく、メガネをしていた。
「カオル、どこへ行くか。」
「らんまるがいるからやっぱ富士森公園かなー。水もあるしトイレもあるし。」
「ああ、それは重要だね。あ、オレ留守電聞いてくるの忘れた。ちょっと待ってて。」
階段を駆け上って部屋に入る。留守電解除。
『用件は、一件です。』
そうだ、夢の樹の水を取り替えておかなくちゃ。
『えー、お疲れさんです、FMの荒井ですー。えーと・・・なんだっけなあ、なんとかっていう雑誌が立花くんにインタビューしたいんだって。立花くん、事務所に所属してないからさー、電話番号教えちゃっていいのかなあ。また電話してくるって言ってたけどね。えーと、なんていう雑誌だったっけ・・・このへんにメモが・・・いいや、明日にでも電話くれる?よろしくね。』
インタビュー?ぼくに訊くことなんかなんにもないぞ。今日は夢の樹のグラスを窓辺ではなく流し台の方に置いて、小皿にちくわを一切れのせておいた。

 富士森公園の近くに駐車できそうな場所があったので、そこに車を止めた。
「じゅん、結構運転うまいじゃん。」
「薬、持ってるだろうな。」
「うん。ねえ、明日も五時とかに起きるの?」
「・・・たぶんね。」
「じゃあさ、お願いがあるんだけど。」
「なに?」
「オレの目が覚めないうちに立川へ行けないかな。」
「立川?」
「店長に会ってちゃんとお礼が言いたいんだ。挨拶してないんだもん。」
「でもおまえ大丈夫なのか?」
「わからないけど・・・。」
「苦しかったらすぐ言えよ。」
「うん。じゅん、もう寝るんでしょ?オレ十分位らんまると歩いてくるよ。トイレ行きたいかもしれないし。水も飲ませてくる。」
「そう。一応後ろにトイレシートは置いておくけどね。じゃあオレ先に寝るわ。今日は疲れた。これ、カギ。」
「わかった。おやすみ。」
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by whitesnake-7 | 2007-12-01 07:07 | 26.~30.
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